2012年12月18日火曜日

実感ないけどもうすぐクリスマスだったよ、な今日この頃

ようやく昨日出したチビツリー。
もう今年も12月。
毎年この時期は何かとバタバタしている感じがするけれど、今年は特にその感覚が強い。
生徒のコンサート、音楽教室のコンサートなど、自分の演奏の方がよっぽど気楽だ、と言いたくなるようなイベントが続き、クリスマスの準備も全くしていない。
明日の音楽教室のコンサートが終われば一息つけるので、その後はクリスマスプレゼントを買いに行ったり、カードを書いて発送したり(今更!)する予定。

しかし何故こういうイベントがあるとドタバタになるか・・・それは本当にお国柄だと思う。
「オーガナイズをする」という言葉を知っている人は、この国にはほとんど居ないのではないかと、毎回思う。
前日まで当日のリハーサルの時間が決まらなかったり、コンサートのプログラムも当日までわからなかったり、リハーサルの内容も当日まで知らされていなかったり。
こういうのは日本人の私にはストレス以外の何者でもない。
自分が歌うのであれば、そこそこどんな状況でも対応できる経験があるけど、歌うのが精一杯の生徒達を傍で見ていてハラハラするばかりである。
おまけに先週の土曜日になんとか終えたアルゼンチン・タンゴとのコラボのコンサートは、一人が2日前に高熱で寝込むハプニングもあり、本当に最後の最後まで色々と気を回して疲れきった。
生徒達が無事に歌ってくれた事だけがなによりであった。

そんな中で、今月は妙に身の回りが最新テクノロジーに囲まれている。
まずは誕生日祝いに、と注文してあった電子書籍キンドルの最新版ペーパーホワイトが今月に入ってようやく届いた。
届いたばかりのキンドルちゃん。
赤いカバーを付けた。

辞書機能もついているので、イタリア語の書籍を読むのがスムースになって大変重宝している。
持ち運びにも便利だが、なによりも画面がとても見やすくて扱いやすくてビックリしている。
日本で日本の書籍用にもう一つ買おうかと考えている中~。






そして、こちらは私のただの我儘であるが、数ヶ月前から買おうと目論んで箪笥貯金をしていたiPhone5をとうとう手に入れた。
お世話になった3GSと一緒に。
2年半前からiPhone3GSを使い始めて、もうこれ以外の携帯は考えられない人間になってしまった私は、この新しい機種を手にして感動しまくり。
画面の美しさ、スピードの速さはもちろん、カメラの機能にはもう言葉も見つからない。

新しい電子機器が実は大好きな私は、かなりホクホクしている今日この頃。

あと二日、頑張ろう・・・。
では、音楽教室に出勤~。


2012年11月26日月曜日

モーツァルトと007な今日この頃だった話。

また少し時間が空いてしまった。
アッティラのあと、今度はモーツァルトと格闘していたのだ。

ミサ曲K66

珍しい事に、こんなミサ曲を歌うお仕事を頂いた。友達のバス歌手経由。
私のレパートリーに殆どないモーツァルト。
有名なアリアは一通り勉強したけど、イタリアに住んでいるせいか滅多に歌う機会がない。
そんなわけで、とても新鮮な気持ちで楽しんで勉強した。
モーツァルト13歳の時の作品と思われるが、やはり流石モーツァルトである。
美しい旋律とソリストの4重唱などのハーモニーは、歌えば歌うほど味が出る感じで、勉強すればするほど楽しさが増して行くようだった。
本番当日の午後にオーケストラと合唱団とのリハーサルをしてから夜本番という、ちょっと無謀なスケジュールだったので、ソリスト同士で相談して合同練習をした。
本当にこれをやっておいて良かった!とつくづく感じた当日であった。
練習と言ってもザーッと通すだけで、それぞれの役目をきちんとこなした物をただ要所にはめ込む、といったものだったので、意外と複雑だった4重唱や、合唱の合間の数小節のソロ部分など、結構緊張感の漂う作品だったのである。

しかしこのコンサート、実はこれだけではなかった。
モーツァルトを何とか把握した!と思ったところへ、今度はテレマンの悪夢が襲ったのだった。
テレマンなんて、高校時代にファゴットの曲にはまった記憶があるだけで(もちろん聴く方)、モーツァルト以上に歌う面ではご縁のない作曲家。
それがオーガナイザーのミスで、ソリストに連絡が来ていなかった事が判明したのが本番の5日前。それもメゾの歌手がスケジュール確認の為に電話を掛けた事が幸いしたのだった。
大慌てで楽譜が送られ、ソリストそれぞれが担当の曲を確認して、何とか本番ギリギリ間に合った状態だった・・・。
ちなみにこの曲→

まぁ、一番最初に話が来た時も、「モーツァルトのミサなんだけど歌ってくれる?」という依頼に「どのミサ曲よ?軽い声のレパートリーの曲なら無理だよ」って言ったら「あ、どのミサ曲かわかんないや、確認して連絡する~」という状況。分かったのは2日後。
なんとものんびりした話でありました。
無事に本番が終わって、本当に良かったよ、と、心から思う私であった・・・。(/´Д`)/


話は180度代わって、ここ数週間の間に私はすっかりダニエル・クレイグのファンになった話。
前から気になっていたのだけど、なかなか観る機会のなかった彼の作品をここのところで4作一気に観たのである。
『ドラゴンタトゥーの女』は原作から大好きで、スウェーデン版もとても楽しんだけど、ハリウッド版も悪くなかった。
原作と比べると細かな描写やストーリー上のエピソードで割愛されてしまう部分が多くてちょっと残念だけど、ハリウッド版はさすがにその辺を上手いことまとめていたように思う。

007のクレイグは正に私好みで、J.Bondはもちろんダントツでショーン・コネリーが一番なんだけど、私にとってクレイグは間違いなく二番手である。
彼の007デビュー作『カジノロワイヤル』もとってもよく出来ていると、夕べ観て思ったけど、新作の『Skyfall』はアデルの主題歌も良いし、007シリーズ50周年記念作品で、とっても面白いのでぜひ観てね♡(日本では12月1日公開だそうです。回し者か、あたしゃ?)


2012年11月16日金曜日

ウーディネ

少し前のブログに書いたオペラ『アッティラ』のオーディションを受けにウーディネへ行って来た。
素晴らしい秋晴れの日で、そのまま遠足にでも行ってしまいたいような気分。

遠くに国境に跨るアルプスが見える。

でも一応目的はオーディションだったので、しっかりニコ子を忘れた。ちっ、私としたことが!

オーディションはまぁ、こんなもんかって出来だったのだけど、なんとも凄い偶然で、審査員の中に私が若き頃、初めて『蝶々夫人』を歌った時のオーガナイザー氏が居て、お互いに再会を喜び合った。
この彼のオーガナイズの公演で、イタリア各地のみならずベルギーまで、そして劇場、街の広場、本当に色々なところで『蝶々夫人』を歌い、経験を積む事ができたのだ。
最後に会ったのは、10年ほど前の事だったと思う。
すっかり歳を取ってしまっていたけど、若いときの楽しかった事を思い出して嬉しかった。

ちょうど計ったようにお昼ご飯時にオーディションが終わり、一緒に来てくれた夫と二人で街へ繰り出した。
まずは美味しいレストラン探し。
お腹がペコペコだったのだが、一軒目に見つけたお店では妥協せず、二軒目、三軒目と渡り歩いて、ようやく決めた。
Ristorante antica Maddalena
フリウリ州のお料理を食べさせてくれるというお店で、小さな店内にはテーブル席が20席弱(もしかしたら二階席もあったかも)。こぢんまりとした作りの、モダンだけど可愛らしく落ち着いたインテリアのお店である。

メニューを見て、Fricoというチーズ入りジャガイモ焼きコロッケ・・・みたいなお料理と野菜の酢漬けを前菜に、そして2種類のプリモを注文した。
右の筒のようなものはチーズがカリカリに焼かれたもの。
下はポレンタ。

一つはCJARSONS (チャルソンス?)と呼ばれるラビオリの一種、特徴的なのはバターと削ったチーズで和えた上にシナモンと少量のお砂糖がかかっていた事。ラビオリの中身のハーブの香りと相まって、面白い美味しさだった。
甘さと塩辛さのハーモニー♪

もう一つは自家製タリオリーニのサン・ダニエーレ生ハム和え。
フリウリと言えば、パルマと並ぶイタリア2大生ハムの一つ、サン・ダニエーレである。
クリームチーズとカリカリに火の通った生ハムで和えたパスタの上に、ドカッと2枚の生ハムが。
これはマジで絶品で、夫は「これを食べにすぐにまたココに戻って来たいね」と言うほどだった。

この日の大ヒット!
再現したいけど、その前にもう一度このお店で食べたいっ!
あ、忘れてはならないのがワイン。
フリウリはイタリアでも有数のワイン(私の好みとしては特に白ワインが美味しい)産地である。
テーブルの上にはCalice(グラスワイン)のメニューが置かれていて、昼間から周りのテーブルもみんなワインを飲んでいる。
グラスワインはフリウリのワインが色々。全部飲みたい~。


私は大好きなPinot Grigioを選んだ。2杯目は違う種類のものを頼もうと思っていたけど、美味しかったので結局同じものをおかわり。
ああ、至福の昼食である。

グラスにはお店のロゴが。
美味しいものを食べたときはダイエットは忘れてとことん食べるのが身上。
というわけで、デザートもしっかり注文。
オーディションで(多分)頭を使ったから、少し糖分を脳に補給しておかなくては・・・と意味不明な事を呟きながら。
Baileysのジェラートにエスプレッソコーヒーをかけて、その上にシャンティリークリームを載せたもの・・・を食べた。

美味しかったけど、コーヒーが熱すぎたのかジェラートが溶けまくっててBaileysの味がイマイチしなかった・・・。









お腹一杯で気分も大満足になった後は、街中の散策である。
ウーディネに一体何があるのか、全くリサーチせずに来てしまった私達だったが(一応オーディションだったしさ。笑)、色々なモニュメントや特徴のある建物などを見て回った。
路地。
マッテオッティ広場




リオネッロのロッジャ
重厚な建物の多いウーディネ。
MaxMaraも他の街とはちと違う?



Duomo

この街にもポルティコ(屋根つき歩道?笑)が。
車に向かいます。
冬時間になり、日が傾くのが早くなったこともあったので、1時間ほど歩き回った後は帰路についた。
帰りは西日に向かって走るのでちょっと疲れたけど、充実した楽しい一日で、良い気分転換になった。

『アッティラ』の次はモーツァルトのミサ曲。

来週の土曜日に歌わなくてはならないので、只今必死のパッチで勉強中。
しかし落差ありすぎ・・・。

2012年10月30日火曜日

低空飛行中

先週末に冬時間に移行したイタリアだが、その言葉に反映されるかのように、急に冷え込んで寒くなった。
1ヶ月パドヴァに滞在した母も帰国し、天気も悪く、なんとも悲しい週末だった。
日曜日は雨と風の音を聴きながら、母が日本から持ってきてくれた本を読みふけった。



須賀敦子さん
彼女の本を随分前から読みたいと思ってきて、ようやく実現した。
文庫本になっている全集の3巻までをネットで購入して母に持ってきてもらったのだ。
ミラノに長く暮らした彼女の文章からは、いわゆるイタリアの明るい太陽の光ではなく、この日のお天気のような少し灰色な空の下の冷たい石畳を感じられる。
彼女の暮らした時代のイタリアは知らないけれど、時間の流れのゆっくりなこの国では充分に想像する事ができるような気がする。

ところで先週のレッスンで一気にテンションが上がった私だったが、その後、ちょっと疲れが溜まっているところに夫がひいた風邪が見事にうつり、只今絶不調である。
週末からの冷え込みも、多分時期的なものであるとは思うが、私が風邪をひくのには充分な状況だったと言える。
それでも月・火は音楽教室へ行かねばならないので、今日までは気張っているが、実は結構キツい。
鼻と目と頭が詰まっているので、昨日は教えながらボーーーっとしてくる瞬間もあった。
おまけに音楽教室は11月に入るまで暖房を入れてくれないので、日が翳ってからの冷え込みは堪えた。かなり着込んで行ったつもりだったけど、足りなかった。
今日はブクブクの着膨れで行くぞ。そして明日からはちょっと真剣に治療に専念しなくては、と思っている。

皆様も風邪にはご注意を・・・。

2012年10月25日木曜日

魔法のレッスン。

ヴェルディのオペラ『Attila - アッティラ』。


ソプラノのオダベッラ役はドラマティコ ダジリタの声種の役で、特にプロローグの登場の場面のアリアが有名である。
上のCから下のHまで、文字通り、上から下への大騒ぎな曲である。
Santo di Patria(Violeta Urmana)
もう一つ、とてもカンタービレなアリアが第1幕冒頭にあり、こちらは若かりし頃にコンクールなどに持って行ったりしていた懐かしい曲。しかし多分軽く7~8年は歌っていない。
Liberamente or piangi (Caterina Mancini)

ヴェルディは大好きだけど、レパートリー的な作品ではないし、自分には縁がないと思ってきた。
ところが神様が「もっと勉強しろ!」と仰っておられるらしく、来月オーディションを受ける話が舞い込み、慌てて楽譜を引っ張り出した。
プロローグの方のアリアは譜読みから、第1幕のアリアは殆ど忘れかけていたのを記憶をかき集める様な状況であった。

登場のドラマティックなアリアは苦手なアジリタもあり、一人で練習しながらどこかしっくり来ないものを感じていたので、レッスンで先生に聴いていただいて率直な意見を聞かせていただき、それによってこのオーディションに挑戦するかしないかを決める事にした。

で、今日のレッスン。
自分で出来るところは何とかこなしたが、やはりアジリタで引っかかる。
「そんなアジリタじゃオーディションは無理よ」と先生がサクッと仰った。
やはりダメか・・・と思ったところへ「こうして御覧なさい」という先生の魔法のアドヴァイス。

その次の瞬間から、私の思考は一気にポジティブな方向へギアチェンジしたのだった。
正に先生の言葉は魔法の呪文である。
明日、オーディションの申し込みをする事にした。

勉強する機会があって、出来ない事が少しでも出来るようになるって、なんて幸せで贅沢なことだろう。
私は本当に音楽に生かしてもらっているんだ、と改めて感じた今日のレッスンだった。
オーディションは勉強する為の良いチャンス。
限られた時間で自分がどこまで出来るかを試すのも楽しいものである。

2012年10月20日土曜日

Viva Turchia! トルコ総括編


帰宅してからようやく 目の上のタンコブ プレッシャーだったコンサートが終わり、ものの見事に心身共に弛緩して生きている私。
忘れないうちに番外編を・・・と思ったのだけど、一体何を書きたかったのかがイマイチ思い出せない。そうこうしているうちに、ドンドン時間が過ぎて、益々記憶が怪しくなってきた。
とりあえず書き始めてみる事にします。(笑)

実際トルコでは楽しい事ばかりで、本当に素晴らしい時間を過させていただいた。
帰宅してからFacebookにトルコのお友達が一気に50人近く増え、いまやGoo★e自動翻訳システムナシではFBも使えなくなってきた。
その内訳は、共演した歌手、合唱団員、オーケストラメンバー、演出スタッフ、事務局の人、メイクさん、かつらさん、そして直接は多分会っていない彼らの友人?・・・とめっちゃくちゃ多岐に渡る。
でもこの20日間でそれだけ多くの人と触れ合う事が出来たって、凄いことだったと改めて思う。
この先、また会って一緒に仕事をすることが出来るのかどうかは今のところまだ分からないけど、そういう機会が訪れる事を心底願うばかりだ。


黄色いタクシー、ちょっと懐かしい。
街角で見たトマト売り。トルコのトマト、最高に美味しいです!


トルコは思っていた以上にいい所だった。
日本みたいに至れり尽くせりではないけど、個々の人間が自然な笑顔を投げかけてくれるので、休憩時間などに一人で居ても、孤独感を感じる事がなかった。
もちろん私が居た劇場という限られた空間での話ではあるが、それでも時間が経つにつれて、私がこの劇場に受け入れられて、ここに居る事が当たり前になって行っているような空気を感じた。
なぜなら初めて一人で劇場に入ろうとしたら(2日目の出来事。一日目は秘書の人が一緒だった)入り口のガードマンに止められたのだ。英語は通じないし、事務所に居る人を呼んでくれ、と言っても分かってもらえない。おまけにこの日はニコ子を持参して居たために、何かの取材と思われてしまったらしく・・・。結局通りかかった事務の人に助けてもらって無事に入ることが出来た。
速攻で秘書の人に「入り口のガードマンに私が不審人物でないと言う事を伝えておいてね」とお願いしたので、翌日からは「顔パス」で!(笑)

街に買い物に出ても店員さんが必要以上にフレンドリー。まぁ、こっちは客だから当然かもしれないけど、それでもやはりチャイを薦められると思わず笑ってしまう。
靴屋のお兄ちゃんも、ベルト屋のおっちゃんも、下着屋のおばちゃんも、洋服屋のお姉ちゃんも、一生懸命に私の欲しいもの、必要とするものを理解して探してくれた。そして一段落するとチャイ飲む?と来る。
しかしお茶を飲みながら長居をするほどの語学力もないので、いつも丁重にお断りしてしまった。
でもその心遣いがなんとなく嬉しい異邦人であった。
もう一つ感じた事がある。
私が滞在したサムスンは決して観光地ではない。そんな街で外国人、ましてや見ただけで東洋人と分かる人間が歩いていたら、他の国では大概ジロジロと見られるのに、なぜかそれがなかった。
歴史的にも色々な文化が交差した国だからなのだろうか、何となく自然に受け入れられてしまったような感覚。
それが居心地の良さをアップさせてくれたのは間違いない。

バフラピデ。結構ハマる美味しさ♪


番外編なので、これだけは書きたい。多分、この話が今回の滞在で一番私らしい話だと思う。
ゲネプロ(本番前の最後の総通し稽古)の日の事である。
始まる15分くらい前、衣装も付けてメイクも済ませて舞台上でのチェックをしていた私のところへ広報担当の女性がやってきた。
「ゲネプロが終わったらローカル局のインタビューを受けてくれるかしら?」と言う。「何語で喋れば良いのか全く見当がつかないけど・・・」と言ったら「質問は2つで、一つはトルコについての印象や感想、もう一つは蝶々夫人の作品についての思いを答えてくれたらいいので、ちょっと考えておいてね」と言って去っていった。
その5分後、再びちょっと慌てて掛け寄って来た彼女、「悪いんだけど、今インタビューしてもらっていいかしら?」と。楽屋でのインタビューということで、部屋に入るとTVカメラと普通のカメラマンが二人。メルハバーと挨拶した後、「じゃあ、インタビュアーは居なくて後で編集するから、とりあえずまず1番目の質問の答えを喋って!」というので、心を落ち着けてめっちゃくちゃサバイバルな中学生英語で「トルコには初めて来ましたが、気候も良く大変過しやすく、快適な日々を送っています。とても楽しく毎日を過して、美味しいものも沢山楽しんでいます」というようなことを話した。
蝶々夫人については少し真面目な答えにするつもりだったので、食べ物の話などを織り込んでチョイウケを狙った私であった。
さて、次は蝶々夫人について・・・と構えたところ「はい、もう結構です。ありがとうございましたー」ってな雰囲気で、インタビューが終わってしまったっ!!!!

ガガガ━Σ(ll゚ω゚(ll゚д゚ll)゚∀゚ll)━ン!!!

これじゃ、私はトルコに歌いに来たんじゃなくて、のんびり観光して美味しいものを楽しみに来たみたいじゃないか!!!!
お願いだからオペラの話も聞いてくれ!!!!

という私の心の叫びが彼らに届くはずもなく、大変遺憾なインタビューとなってしまったのだった。
こうなったら「英語が酷すぎるね」とか「メイクが怖すぎるよね」とか、どんな理由でもいいからカットされた事を祈るのみ・・・。
広報の女性もちょっと呆気に取られていた。そしてその日の夕食で訪れたレストランで彼女に会ったときに「あのインタビューは酷かったわよねー」と笑いのネタになったのであった・・・。

まぁ、そんな感じで、良くも悪くも「自然体」で駆け抜けた20日間だった。
『蝶々夫人』という作品のお陰で、今まで私は本当に色々なところを訪れる事が出来た。
そしてどこでも楽しくて素晴らしい体験が出来て、沢山の素敵な思い出がある。
これから先、そんな機会が一つでも多く増える事を期待しつつ、精進するのみである!

というわけで、トルコ初体験の日記シリーズはこれにて終了~。
最後までお付き合い、ありがとうございました(^з^)-♥Chu!!

黒海の上にぽっかり浮かんだ満月。
思わず「また来れるように」とお祈りしてしまった。

2012年10月4日木曜日

帰宅~感謝。

サムスンオペラ劇場


公演の後、そのまま寝ないで荷造り、早朝5時の飛行機で出発し、イタリア時間の10時過ぎには帰宅しました。
お陰様で公演は大成功(個人的には色々反省点があるので100点は付けられないのだけど)。
観客総立ちのカーテンコールは本当に久しぶりでした。
その興奮のままに、みんなが嬉しそうに打ち上げているのを幸せな気持ちで眺めていました。
私を信頼して呼んでくれたロレンツォの期待に応える事も出来たようで、大騒ぎな打ち上げの解散後に、改めて送ってくれたSMSでそれを確認する事が出来て、ようやく安心しました。

トルコでの日々は、音楽家としての自分を本当に満喫できた時間で、もうこのまま人生が終わってもいい!と半分冗談で思えるくらい幸せでした。
大きな有名劇場ではなくても、少しでも良いものにしようという気持ちがチームに段々と育ってゆくのを感じられました。
そして私にとって、毎日稽古に明け暮れる事が出来るって、本当に楽しいのです。
歌の事だけ、歌う作品の事だけを考えていれば良いって思える時間は、こういう稽古期間~本番の間のみ。
そして関係者の気持ちが一つになっていくような感覚。
この感覚は、多分カーテンコール以上に、私には麻薬のようなものなのです。
だから、実は本番が近づくと段々と寂しくなってゆく私。今回もGPが終わった後は、なんだかとても悲しかったです。
こんな貴重な時間を与えてくれた、劇場関係者、スタッフ、共演者・・・全ての人に心からの感謝を。
出発前にこんなに「We'll miss you!」って言ってもらったこと、短くない人生の中でもあんまりなかったかも知れません。
また来てね、って本当に心から言ってくれているサムスンの皆さん、多分12月の公演に出演する為にまたお邪魔します。
確実に決まったら改めて・・・♪

そして、今回はロレンツォとべったりで、馬鹿話からここ数年のお互いの人生について、音楽について、本当に色々語り合いました。これがとにかく楽しかった。
多分彼とはフィーリングが合うと言うか、お互いに認め合っているからなのか、とにかく信頼されていると思える感覚が相手への信頼に繋がって、良い形でエネルギーが二人の間を回っている、というような感じ。
しかしローマ人で、たまに激するとぶっ飛ぶので、友人としては何となく諌めたりアドヴァイスをしたり。意外と真面目に聞いてくれるのが可愛いところ。(笑)
ぶっ飛びキャラだけど繊細なロレンツォ。でも一旦指揮台に立たせると、昨今では数少なくなった「本物のオペラ指揮者」でもあるのです。
指揮が彼だったから、ON でもOFFでもこんなに楽しかったのだろうなぁ。
劇場の芸術監督とロレンツォと。楽しみすぎか・・・?(;゚д゚)


ある日、彼に「本当に長い間私の声も聴いていなかったのに、よく迷いもなく呼んでくれたね。不安はなかったの?」と訊いてみました。
彼は「ちゃんとまだ歌える、ってお前が言ったからそれを信じた」と一言。
そして公演後のSMSにはこんな事が書いてありました。
「素晴らしい演奏をしただけではなく、リハーサルの最初からレベルの高いプロとしての仕事をして、若い歌手達に良いお手本となってくれた事にも、心から感謝する」と。

頑張って勉強を続けていて、本当に良かったと心底思った瞬間でした。
ありがとう、ロレンツォ。これからもまた一緒に何か出来る事を祈ります。

2012年9月30日日曜日

トルコの日々。その5

公演を見守るスタッフの目線はこんな感じ?

今週も、曜日の感覚がないうちに過ぎてしまった。
昨日、私の組のゲネプロが終わり、いよいよ明日が初日だ。
私は明日の公演が終わったら、翌日早朝(5時!)の飛行機でイタリアへ帰る。明日は慌しく過ぎることだろう。

今週はオーケストラと一緒に、最終的な通し稽古が続いた。
オケと歌うのは大変に気持ちが良いけれど、物凄く神経も使う。ピアノ伴奏とは全く違う”音の幅”の感覚のようなものを研ぎ澄ませて臨まないと上手く行かない。
もちろん指揮者が居るのだけれど、舞台の上ではいつも彼を見ていられるシチュエーションとは限らない。
何度歌っても、気をつけなくてはいけないところはたくさんあるし、歌い慣れてしまったことで思わぬところでテンポを数え間違えたりしていることを指摘されて慌てたり・・・。
本当にオペラは生き物だなぁ、と思う事ばかり。
そんなわけで、思いのほか体力+気力も使った一週間が過ぎ、残すは本番のみ。
幸い、体調も良く、明日は一音でも理想に近い声を出すことを目標に、楽しんで歌いたいと思っている。

オペラは決して1人で作れるものではない。
このオペラでは私が主役で、たくさん歌う役だからと、どこで歌っても周りが本当に気を使ってくれる。
今回、このトルコという国でも、言葉が通じないながらも目が合うだけで彼らが私に気をかけてくれているのが分かる。衣装さんもメイクさんもかつら係りさんも小道具さんも・・・。
そんなスタッフやオーケストラ、合唱団、そして一緒に歌うソリストの全てに心からの感謝の気持ちを込めて、良い歌を歌うことが、私の出来る唯一の事だと思っている。
綺麗ごとではなく、どこの劇場へ行っても、本当に多くの人がそれぞれの持ち場で頑張ってくれている姿を目にすると、ライトを浴びて表舞台に立ち、拍手を受ける私は、彼ら一人ひとりの仕事の集大成なのだと思う。責任は重い。
しかし、だからオペラが好きなのだ。
オペラでは孤独感が無い。上手くいえないが、舞台に立っている自分は自分自身なのに、自分自身だけではないという感覚。
明日も、私の与えられた数多くの音を、一つ一つ心を込めて大切に歌おう。
演奏が終わったときに、劇場中が共有したその時間を幸せだと感じられるように・・・。

衣装・メイク付き通し稽古。
photo: Cansu Açikgöz




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トルコ日記、これにて終了します。
読んでくださってありがとうございました。
帰宅して一息ついたら、番外編を書きますっ!書きたいことたくさんあるしーーーー!
お楽しみに~♪

2012年9月26日水曜日

トルコの日々。その4

ホテルの部屋は東を向いているので、毎朝カーテン越しにも部屋が明るくなるため、どうも早起きしてしまう。
気持ちとしてはもっとゆっくりと寝ていたいのに、8時以降に目が覚めることが殆ど無い。
まぁ、元気だから良いのだけど。

トルコでの生活も残り1週間となった。
土曜日の通し稽古の翌日は一日フリーの日曜日だったので、朝食の後カメラを持って、海辺や街を写真を撮りながら散策した。
少し観光客気分。
街中は日本の日曜日のようにお店も殆ど開いていて、人が溢れている。
少し気温は下がったけど、太陽の光が強いので暑い。まだまだ夏服の人たちばかりである。

やがて昼時になり、ロレンツォから連絡が入って一緒にお昼を食べることに。
私が彼のホテルの近所に居たので、迎えに行ったらネクタイにジャケットという珍しくエレガントな姿で現れた。
「日曜日だから」だそうだ。
稽古場ではいつもは黒いTシャツで、お洒落なんて全く興味がないような格好をしているので、ちょっと微笑ましかった。
先日夕飯を食べに街に出たときに、夜の8時半でも開いているお店があり、「ポロシャツが買いたい」と言うので入店。しかし彼のサイズで好みの色がなかなか見つからず、30分以上悩んで試着してからご購入。
やっぱりこの人もイタリア人なのねぇ、と感心した次第である。

さて、昼ごはんを終えたところへコンサートマスターが合流。ここで二人はお仕事タイム。
第一ヴァイオリンの運弓法についてのチェック。横で見ているだけでもなかなか興味深かった。
色んなポイントを細かくチェック!
いつもふざけてばかりいるロレンツォも、一旦音楽の話になると目の色が変わる。

こんな風にオーケストラも細かい作業があるのだなぁ、とちょっと感動。

このあと、3人でホテルの近くにある「ショッピングセンター」へ行くことにした。
ショッピングセンターというか、いわゆる露天のようなお店がひしめき合っていて、洋服・バッグ・靴・アクセサリー(偽ブランド物ばかり!)などの他に、生活用品やお土産物、食べ物屋が果てしなく並んでいる。とにかく見ているだけでも楽しいところである。
「偽ラコ●テのポロシャツが欲しい」というロレンツォ、一軒のお店で希望の品を発見して目を輝かせた。しかし黒とか深緑みたいな暗い色ばかり選ぶので、「赤とかも着ればいいのに」と言うと「一度着てみたけど似合わなかった」と言うので、ボルドー色を薦めたら、気に入ったらしくそれも含めて3枚ご購入。ちなみに1枚20トルコリラ(8ユーロくらい!)。安い!!!
その他、稽古用Tシャツ(指揮者は休憩ごとに着替えるほど発汗するのである)を3枚と靴下も買い、ショッピング熱炸裂。
仕上げは出口付近にあった、「石のお店」。
パワーストーンとかそういう「何かの力」が大好きな彼は、ショーウィンドーに張り付いたまま動かない。
私もトルコに来た記念に、なにかアクセサリーでも買おうと思っていたので、お店に入ってブレスレッドを物色し始めた。やがてロレンツォも入ってきて店内のものにも興味を示し始めたところで店員さんがやって来た。
アメジストの置物の値段を訊き、いきなり「まけて」とイタリア語で交渉開始。????って顔をしている店員さんのために、私が会話集を引っ張り出してトルコ語を示すと爆笑。
かなわん!と思ったのか、小柄な女性店員と担当を交代して、去って行った。
この女性は少しだけ英語が話せ、とても感じが良く、にこやかに応対してくれて、結局何だかんだとロレンツォが選んだかなりの量の石も、私のブレスレッドも、全部オマケしてくれた。
コンサートマスターはとっととショッピングセンターの外で座って待っていた・・・(笑)。
私の戦利品。



夜は私の希望でピアニストのユリアを誘って、トルコ風ピザ・ピデを食べに街のお店へ。
これ、イタリアのピザとは似て非なるもので、結構私好み。チーズとお肉と卵がドーンとのっかっている。そして台の生地はサクサク・・・。
楕円形に焼いたものを食べやすく切って出してくれる。

イタリア人は「えええ、こんなのー」と言いそうだけど、ロレンツォは意外と気に入っているらしく、パクパクと食べている。
私もしっかり1枚ぺロリ。ご馳走様でした。

お腹が一杯だったので、少し遠回りをして散歩しながら宿に戻った。夜は人の気配も少なく、静かな街に心地よい風が吹いていた。
日中は人で一杯の商店街も。

街で一番大きなモスク。夜はライトアップ。


そんな感じでダラダラと日曜日を過ごし、とうとう初日に向けての最後の1週間が始まった。
まず月曜日はオケとの音楽稽古。Sitzprobe(ドイツ語)、Italiana (イタリア語)とよばれているものである。歌手は演技をせずに、音楽に専念する稽古だ。
午前、午後でダブルキャストが分かれて稽古した。
オケと歌うのは実は大変に気持ちが良い。しかしこの日は、1週間以上全く別のプログラムを演奏して久々に『蝶々夫人』に戻ってきたオケだったので、どうも午前中は歯車が噛み合わない演奏で、私たちも少し苦労した。
翌日の昨日の1幕のみの稽古では、さすがに色々と思い出したのか、かなりまとまりのある演奏になっており、舞台上で演技をしながらでも気持ちよく歌うことが出来た。
今日はその続きで、午前中が2幕、午後が最終幕の稽古である。
更に合唱団員の女の子に「ちょっと私の声を聴いてアドヴァイスしてください」なんてお願いされてしまったので、稽古の後にちょいとそんなことも。
こんな感じで90%(10%は食べることと寝ること♪)音楽に浸っている毎日で幸せな私。

夕暮れ時にはこんな空の色に癒されている。



2012年9月22日土曜日

トルコの日々。その3

というわけで、トルコに来てからあっという間に10日が過ぎた。
10日間の間、殆ど毎日ホテルと劇場を往復して、稽古に明け暮れていたのだが、たまにロレンツォと街に夕飯を食べに行ったり、ホテルのレストランで同僚とお喋りしたりと、楽しい毎日を過ごしている。
初めは目新しかったチャイにも、モスクからのお祈りの放送にも、凄い喫煙率にも、大分慣れて来た。特にトルコ語は、かなり耳に馴染んで来たが・・・相変わらず全く分からない。(爆)
同僚たちがおしゃべりをしているところに、なんとなく語調に合わせて「タビ、タビ(もちろん、という意味)」と言うと、みんな一瞬キョトンとした後に爆笑するのを楽しんだりしている。

昨日は午後がフリーだったので、イタリア語を少し話せるピアニストのユリアと、もう一人のトルコ人蝶々さんのセヴィンチにネイルに連れて行ってもらった。
生まれて初めてのネイル経験はトルコ!
とはいえ、舞台があるので派手なデザインはNGだから、形を整えて、甘皮を切ってもらい、ナチュラルカラーのマニキュアを塗って終了。それでもプロの手にかかるとこんなにも綺麗になるのか・・・!と昨日から感動して手を眺めまくっている私。これは病みつきになりそうだ!!!
ところでトルコの街で面白いと感じたことがある。それは建物の外装と内装の落差。
昨日のネイルの美容院も、入り口は「ええええ!?」と怯みたくなるようなボロさで、電気も薄暗くて「本当にここに美容院があるのか?」と、多分一人だったら速攻で帰ってきちゃったような建物の最上階にエレベーターで昇ってみると・・・!
広々とした近代的な内装のサロンが!!!
外装の写真を撮らなかったのが残念!

この落差には本当に驚いた。
通りに面した方角は全て窓になっており、さらにサンルームのような一角もあって、そこに座ってお喋りをしながらネイルをしてもらった。
もちろんチャイも振舞われる。そしてタバコと携帯電話(殆どの人がスマートフォンをお使いですが)。
このテーブルの周りにソファが置かれて、快適な空間に。

劇場でもどこでも、チャイとタバコと携帯・・・というのがトルコのスタンダードのように見える。
もちろん吸わない人も居るのだけど、イタリアのようにレストランやバールなどでタバコが吸えなくなった状況に慣れた身には、却って珍しく感じるのである。
携帯に至っては、若者でいじっていない人がいないくらい。稽古中も客席からビデオを撮ってる人が何人もいて、これで演出を覚える、とふざけたことをのたまわる若い歌手もいて、演出家がプンプン怒っていた。(笑)
まぁ、お国柄・・・なのかな?

さて、その演出家がスケジュールの都合で、今夜イスタンブールに帰ってしまうので、今日の午後からの稽古が実質最後の演出稽古で、私の組が衣装・メイク・かつらも付けての通し稽古をする。夕べ遅くまでライティングの設定をしていたようで、一応ピアノ伴奏ではあるが、実際の舞台通りの進行で行われる。
ピアノ伴奏での稽古も今日が最後で、明日の休日を挟んで、後は本番までオーケストラとの稽古になる。これは本当に楽しみ。
今日は3時開始だけど、準備のために2時間前に劇場入りしなくてはならない。
昨日は別の組が衣装とかつらだけ付けての通し稽古だったのだけど、やはり衣装を着ると、これまで自分の服で行っていた稽古とは労働量が全く違うので、裾さばきなどが大変そうだった。
ちなみに衣装は和装ではなく、洋装のドレスに袖部分に振袖が付いている、ネオクラシックとでも言うのか、かなりいい雰囲気の衣装である。
しかし立ったり座ったりの多い蝶々さんの演技には、かなり神経を使いそう。
今日は終わったらグッタリかな。

トルコに来て初めての雨模様の今日。
曇り空の黒海は、なんとなく勝手に抱いていた黒海のイメージ通りだったりする。

では、今日も頑張ります。




2012年9月17日月曜日

トルコの日々。その2

トルコに来て最初の週末が過ぎ、今のところ休みもなく毎日せっせと稽古をしている。
でも少しづつ慣れてきて、私も肩の力が抜けてきた感じがしている。
稽古のほうは、私に係わる事はきちんとこなしているので、順調と言えるだろう。
歌手仲間もスタッフも、最大のリスペクトで接してくれているのが、言葉が分からなくても感じる。

なんと言うか、ものすごい「おもてなし」の国、なのである。

例えば休憩の時には劇場内の喫茶室でみんなチャイとタバコである。歌手でもなんでも、とにかく吸っていない人のほうが少ないくらいの喫煙率!お国柄なのねぇ・・・。
で、私は今日初めてそこで自分のお金でチャイを飲んだ。
トルコに来たら、あなたもきっと病みつきに・・・。

今日までは絶対に誰かが「ご馳走させて」と、払わせてくれなかったのだ。
これは昼食の後や、稽古後のビールタイムなどでも、「飲み物は私が」「今日は私が」「遠くから来てくださったのだから私に払わせて」・・・と殆どお金を使うことなく過ぎている。

極めつけは昨日。
日曜日なので午前中の稽古だけ(といっても14時まで目一杯)だったのだが、その後「今日はピクニックです」と、芸術監督の車に乗せられた。
車はサムスンの街からどんどん東に走り、バフラという街に到着。他に2台の車が同行、ロレンツォ、演出家、もう一人の蝶々さん、ボンゾ役のバス、ピアニストとスタッフ数人の面々・・・。
バフラの街角

最早芸術の域に達していらっしゃるようなバイク・・・。
(バフラにて)

物凄いスピードで1時間くらい走ったので、多分少なくとも100kmくらい離れているのではないだろうか。
そのバフラはトルコ風ピザ「ピデ」が有名な街らしく、どうやらその中でも有名店に来たらしい。
空腹を抱えて待つ面々

しかしここに来る、と決めていたにも係わらず予約していなかったのはご愛嬌で、15時過ぎなのに店は満席、少し待つことになった。
その合間に私はそこらへんの写真を撮ったりして、いわゆるトルコの「普通の生活」の匂いがする風景を楽しんだ。
ピデはお腹にどっしりと溜まったが、表面がカリカリとしていてちょっとスナック感覚で食べられる。
こういう風に閉じてあるのがバフラピデらしい。

唐辛子の刻んだものがテーブルに置かれていて、それを好みで付けながら食べた。

ピデの後は「ワインを飲みましょう」と別の店へ移動したが休業。
そこでどういう風に話を決めたのかは私とロレンツォには分かるわけも無く、ただ黙って後をついて歩いていくと今度はスーパーマーケットに入ってゆく。
これ幸い、と私は買いたかったハート・クローバー・スペード・ダイヤの形をした角砂糖やミネラルウォーター、りんごなどを買った。
で、何故スーパーに入ったのかと言うと、ワインを買うためであった。
「このワインを飲みにイイところへお連れします」と言うようなことを言う芸術監督。
再び車に乗って、まだガーーーーっと走り出した。
バフラの街を抜けて、また国道のような道をひた走り、途中で今度は内陸に向けて左折した。
黒海沿いの風景が、田園牧歌的な風景に様変わりし、40分も走った頃に大きなダムが見えてきた。これはクズルウルマク川をせき止めたデルベント・ダム湖。


更にこの先の川の上流の景色の良いところまで車を走らせ、ある地点で車を降りて、そこでおもむろにワインを取り出し、景色を眺めながら赤ワインを飲んだのである。
静かで美しい景色を眺めながら、こんな遠いところまで連れてきて、美しいトルコを見せようとしてくれた心意気に、なんだか胸が熱くなった私であった。
夕暮れの中をゆったりと流れる

手付かずの自然が美しい


言葉が思うように話せない同士でも、伝わるものがある。
ある意味、勘と感を総動員してのコミュニケーションの日々である。
でも、彼らの優しさやリスペクト、もてなそうとしてくれる気持ちは本当に言葉以上にひしひしと伝わってくる。
私はそんな彼らに対して、100%の力で良い演奏をすることで、お返しをしたいと思っている。

というわけで、稽古の日々は続くのであった・・・。



おまけ。
トルコと言えばチャイな話はもう一つあって、今朝ちょっと練習用の靴を買いにあるお店に入ったら、そこのお兄さんが私以上にサバイバルな英語力で、言語ではないコミュニケーションでサイズとか値段の話(?)をしていたのだが、突然「チャイ飲む?」と訊く。靴屋でチャイ!? ガイドブックに書いてあったことは本当だった!!!
トルコ、さすがなチャイ帝国である。(クソ暑かったので丁重にお断りいたしました。ありがとねー)




2012年9月15日土曜日

トルコの日々。その1

きっと何回かに渡って書くことになると思われるので、今日の分は「その1」にしてみた。
続きを書かなかったら締まらないので、多分書くつもり。
3日分をまとめて書いたので、少し長くなってしまいました。
おひまな時に読んでいただければ幸いです。

さて、トルコに着いた翌朝は何だか時差ぼけを引きずっているような気分で目覚めた。
ホテルの部屋から黒海を臨む

しかし稽古に参加する・・・と思うと、気分も高まると言うもので、あまり眠れなかった割には気分的にはイケイケな感じだった。
14時に前夜迎えに来てくれたグネスさんがホテルのロビーに現れ、そこから徒歩100mくらいのところにある劇場へと案内してくれた。
つまりお隣の建物なのだ。

サムスン国立オペラ&バレエ劇場(という名前だと思う…)


モダンなデザインの建物の中はちょっと入り組んだ作りになっていて、連れて歩かれながらキョロキョロ。
分かったような分からないような感じのまま、最上階にあるレストランへ連れて行かれた。
レストランと言っても、ランチは劇場職員のための食堂といった趣で、ここで初めてのトルコ料理らしきものを食べた。
何か穀物を蒸したものをお米のように付け合せ、それにインゲンの大きな感じのもののトマト煮となすとお肉のスパイシー煮込みを一緒に盛ってもらい、なぜかコカコーラを渡されたのでそれも一緒に頂いくことに。
スパイシー煮込みが結構私好みだったが、舌で感じるよりも身体はそのスパイシーさを強く感じたらしく、食べているうちに身体が火照ってきた。
まぁ、美味しく頂いたその昼食の場でロレンツォと再会。この人は本当にいつ会っても同じテンションで分かりやすいと言うか分かりにくいと言うか・・・。でも久しぶりに会ったのになんだか全然変わっていなくて面白かった。

稽古が始まる前に紹介しなくちゃいけないので、とグネスさんがオフィスの方へ案内してくれた。
もちろん総支配人である。
秘書の部屋でしばらく待っていると、背の高いスーツを着た結構カッコいい人が現れた。年のころ、同じくらいか?
しかし落ち着きがあって、なかなかダンディーな総支配人である。
この方に「是非飲んで!」と薦められ、トルココーヒーをご馳走になった。
お水と一緒に出されるトルココーヒー

コーヒーは大好きなので喜んでいただいたけど、あの底に残るコーヒーの粉を一体どのくらいまで飲むべきなのか悩んでしまった。(後で聞いたら好きな人は粉も食べちゃうし、地方に行くと粉を残してお湯を足してお代わりにする人も居るらしい)
にこやかに怪しい英語でご挨拶と当たり障りの無い会話をして退散。
この総支配人は元バレエダンサーなんだそうで、なるほど納得!

さて、いよいよ稽古場へ。
レストランで演出家や共演者の何人かとすでに挨拶をしたのと、劇場側は私の到着を今か今かと待っていた感もあり、会う人会う人に「Welcome to Turky!」と笑顔で声を掛けてもらい、すんなりとその場の空気に馴染むことが出来た。
トルコ人、フレンドリー♪
稽古はオペラの中で最もやる事が多い(笑)2幕からであった。演出家はすぐに私に、と言ってきたが、何も知らない私に一々説明しながらやるより、一度出来上がっているものを見せていただいた方が時間の無駄がないと思う、と言って、まずはもう一人のバタフライさんにやっていただいた。
演出はとてもシンプルで多くを求められることも無く、分かりやすかったので、繰り返したときには結構スムースに進み、結局3幕まで突入。
コカコーラとスパイスとトルココーヒーのお陰でか、寝不足でも全開バリバリで歌ってしまった・・・。

稽古の後はロレンツォが「劇場付きの別に指揮者に夕飯に招待されているので来い」と言われ、一旦ホテルに戻ってシャワーを浴びて着替えた。
この時にロレンツォは「この町でもかなり良い魚料理のレストランに行くらしい」と言っていたので、一応ワンピースとか着てちゃんとお化粧も直して出かけた。
しかし車で迎えに来てくれた指揮者氏が連れて行ってくれたのは、高級レストランではなく、とても大衆的な魚レストラン。ここは近所の魚屋で食べたい魚を買い、この店で調理してもらって食べると言うシステム。レストランはサラダやポテトフライ、飲み物などを出すのだ。
旬だというカタクチイワシのグリルを山ほど食べ、ポテトフライの美味しさに驚いた。
そして食後は念願の初チャイ!
噂通り、トルコはチャイなのだ!!!

ここにはオーケストラのメンバーが何人か集まって盛り上がっていた。
英語とトルコ語とイタリア語となぜか一人日本オタクがいて、日本語まで飛び出した夕べだった。
11時前にゾンビのようになって帰ってきた。で、バタンキュー。

翌日の稽古は午前中がオケ合わせ。
こちらはもう一人のソプラノさんに歌っていただき私はノンビリ。
しかしその分午後は、装置の設置された舞台での演出の稽古で目一杯働いた。
汗だくの稽古が終わり、なんとなく誘い合わせて最上階のレストランへ。
ここのテラスが最高に気持ちよく、疲れた身体にさわやかな夜風とビールとおつまみ・・・。
トルコのビール。苦味があって美味しい。撮影用に演出助手が自分のも並べてくれた。ww

トルコ語とイタリア語と英語でわいわいとお喋りして、みんなで疲れを癒した。
そのまま軽食を夕食にして9時の閉店と共に解散となった。

そして今日。朝からひたすら演出の稽古である。
子役もやってきて、熱の入った練習になった。
昼食をはさんで夜の6時半まで目一杯。
さすがに疲れ果てて、ロレンツォの誘いも断って今夜はノンビリすることにした。
彼は他の歌手連中とどこかへ行ったらしい。
今日の昼にまた別の「魚を選んで調理してもらう」レストランへ連れて行ってもらったのだが、ここで選んだ鯖が立派過ぎて(凄く立派なのに4トルコリラ=2ユーロ!)、全然お腹が空かなかったのだ。
建物に入るとこんな魚屋が並んでいて、自分で食べたい魚を選ぶ。
見るからに新鮮な黒海の魚である。

ついでに、ここのところ調子に乗って飲んでいたビールも今日はお休み。
昨日の衣装合わせで、ぴったり過ぎる衣装であることが分かり、あと15日間でちょっと絞っておいた方が動きのためにも無難であること間違いなしである。

明日は午後はお休みになるらしい。
いよいよ町を散策できるのかもしれない!
今日、芸術監督に「サムスンはどうですか?」と訊かれ、「残念ながらホテルと劇場しか知らないので、なんとも言えません・・・」と答えて爆笑された。
明日はショッピングの楽しめる通りとやらに行ってみたいと思っている。

昨日から劇場内に貼られた公演ポスター。
なかなかステキ。